タローの散歩に出ようと門まで来ると、郵便受けに、封筒らしきものが見えた。デパート、近所のブティーク、ギャラリーなどからのDMに混じって、旅行会社の封筒があった。帰ってから見ようと一旦は思ったものの、「もしや?!」と思わせるものが記憶の中にあった。その封筒だけお尻のポッケに入れて門を出た。

 歩きながら読むわけにもいかず、どこかいい場所がないかと探しながら、タローに引っ張られて歩いた。タローはいつもの公園に入り、水場で水を飲んだ。ベンチの方向へ誘うと、タローはおとなしくついてきた。

 単なるDMではなさそうな旅行会社の封筒は、食品会社主催の「ニューヨーク一週間の旅ご招待」の当選案内だった。ボランティア仲間と連名で申し込んだものだ。間違いない。


 連名で申し込んだ彼女は本当に一緒に行けるだろうか。休暇が取れたら家族で海外旅行をしようと言っていた夫は、一週間の留守を承知してくれるだろうか。小学生の娘と二人だけで一週間過ごせるだろうか。タローの散歩は誰がしてくれるだろうか。独り暮らしの母は旅行の間病気になったりしないだろうか。次から次に思い浮かぶ「だろうか」にウンザリしてしまった。

 「タロー、帰ろう。」
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