平 川 門

年一回の健診の後、胃カメラ再検の通知を貰っていた。
「そんなことはあるまい」と思いつつも、検査を受けるまでの一ヶ月は
心のどこかが小さく波打っていた。
胃のあたりのほんの少しの変化が、大声で話を始める。
くだらない話だと思いつつも、信憑性を帯びてくるように思えてきた。

「泡でした。」
医者の一言で、胃に聞かされてきた話は
歩道を舞う紅葉の落ち葉と共に、街角の向こうへ飛んでいった。
その角を曲がると、そこは小春日和。

「一時間は食事をしないでください。」
そう言われて、
駿河台から水道橋駅の近くへ下り、白山通りを神保町交差点へ。
古書店街を30分ほどぶらつき、皇居東御苑へ向かう。
一ツ橋を渡り、大手濠に出る。ちょうど12時。

紅葉した梢の下に、幹を囲むようにベンチが設えてあった。
残念ながら背もたれはない。
鋳鉄の骨組み。厚い木の座面。念入りの塗装。
ロンドンの街にあるようなベンチを求めてはいけないだろうか。

月曜日。
平川門は閉じられていた。東御苑には入園できない。
竹橋交差点を過ぎ清水濠沿いを歩く。
清水門をくぐり、北の丸公園を横切り、千鳥が淵を右手に見ながら、
内堀通りへ出た。足は麹町へ向かった。

胸の痞えが消え、秋の陽は一層温かい。
元気になった胃に、温かいうどんの出汁が浸みわたる。


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