これが わたしの 生き方

       

 板塀の下のチョッとした隙間から
 日の差している通りを覗いたとき、
 雪駄を履いたお兄さんの通り過ぎる
 のが見えたの。

 思い切って首を出しちゃった。

 あの日以来よ、私の一生も捨てた
 もんじゃない、
 と思えるようになったのは。

 あの日の朝だった。
 避ける間もなく、奥さんにクロス
 を被せられた。

 幸い煙草の焦げ痕があった。
 チョッと力が要ったけれど
 やっとのことで首を出せた。

 風が吹いても埃が立たず、
 雨が降っても泥がはねなくて
 結構快適。

 あれはまだ若い頃のことだった。
 まだ根も張り足りなかったし、
 腰も弱かったのを見かねたのか
 市の職員が麻縄で支柱を添えて
 くれた。

 まー、そのうちにはずしてくれる
 だろうと高をくくっていたのが
 まずかったようだ。

 麻縄は知っての通りなかなか
 腐っちゃーくれない。こっちも肉を
 つけなきゃいけないから懸命
 だったのよ。気がついたらこう
 いうことよ。

 気にしだすと引き攣る感じが
 しないでもねーけれど、
 まー、このままいくよりしょうが
 ないね。

 どこをどう歩いてきたか覚えて
 いないんです。
 敷かれたばかりのブロックの
 上で遊んでいたら、そこへ夕立。

 隙間に流し込まれて身動きが
 とれなくなってしまったの。

 あきらめちゃった。友達も
 一緒だったし。

 結構楽しいわよ。時々踏まれる
 のがちょっと辛いけど。

 最初は俺一人かと思ったら
 どうして、どうして、

 次から次へ仲間が増えて。

 ただねー、最近気が弱くなって。
 俺一代で終わりかと思うとね。

 何とかしようと思うと、
 頭を踏まれるんでねー。

 朝帰りの男の子、
 高校生かな?
 近づいてくる様子から、
 「まずいなー」と思った。

 ポケットから取り出したナイフで
 私の素肌に。

 別れてきた初恋の人は”A”?。

 志を貫くために?
 きっとそうだろう。
 少年の顔は清清しかった。

 どうしてこんなところに?って
 何時も風に訊かれるの。

 好きで来たわけじゃないのに。

 でも日当たりは最高で
 結構住みやすいわよ。
 これから夏に向かって
 どうなるのか。まるっきり
 想像がつかなくて。

 もう少しのびのびとしたいのに
 それが出来ないのが
 難点といえば難点かしらね。

 ちょっとモダンな感じが
 気に入ってここに決めたんだ。

 太陽の照り返しがちょっと
 辛いことはあったけどね。
 カッコよく見せるには多少の
 やせ我慢はね。

 しかし、ここまで生きてくると、
 土のぬくもりが恋しくなるねー。

 いまさら、愚痴も言えないが。
 今となっては、この身を早く
 隠したいね。

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