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撮影に行った町の民家の生け垣に
グミの赤い実を見つけた。
子どもの頃のわが家の庭の隅には
ユスラウメの木があった。
梅雨時には赤く艶やかな実が
柔らかく小さい葉の陰に見え隠れして
一粒一粒摘まみ取る度に喜びがわき上がったものだった。
小学校の登校路の一軒の生け垣にはグミの木があって、
ユスラウメより一寸遅れて白い実が赤味を増して行った。
摘み取って口に運びたい誘惑を抑えるのに苦労したものだ。
結局、誘惑に負けることなく過ぎてしまい
今なお、グミの味を知らずにいる。
故郷を離れ、家族を持ち
庭の隅に植えたのはユスラウメだった。
ある日こどもが
「グミあげようか?」と言って手のひらに乗せてくれたのは
ゴムのような菓子のグミだった。
郷愁の「茱萸」の味は
未だに知らない。
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