ユスラウメ
紀夫が思い描いていた自分の家の庭の片隅には、ユスラウメの木が一本なければならなかった。
五月の風の中に梅雨の兆しを感じる頃、柔らかい緑の葉の間で、白い小さな実が、ポッ、ポッと紅を差していくさまは、紀夫の感性の試薬かもしれない。