フリージア (その34)
クラス会の席に紀子の姿はみえなかった。
 
幹事が出欠の返信はがきの束を持ってきてくれた。
数枚のはがきを読み進むと懐かしい筆跡が目に入った。
どことなく弱々しい印象が気になった。

紀子の返信はがきにはもう一枚のはがきがホッチキスで留められていた。
裏返すと、 
『幹事様 紀子からクラス会への「出席」の返事が出されていることと存じます。
本人はとても楽しみにしていたのですが、返事を差し上げてから紀子の体調が急変し、・・・。』
 
茂夫は読み終えずに、紀子からの返信を読んだ。
「みなさまとの再会を胸の動悸を覚えながら楽しみに・・・。」
添え書きの最後にフリージアの花が色鉛筆で描かれていた。
他のはがきは見ずに隣へ回し、茂夫は席を離れた。
ホテルの庭に出た。
就職のために上京する紀子を見送りに行った駅のホームで
列車を待つ間、二人で眺めた南アルプスの連峰は、
昔のまま盆地の西に聳えていた。
 
茂夫が渡したフリージアの花を、南アルプスを眺めながら、
何度も何度も鼻先に持っていった紀子の仕種が思いだされた。
茂夫の眺める南アルプスの山並みが少しずつ滲んできた。
inserted by FC2 system