フリージア
紀子は迷っていた。
昨日届いた高校のクラス会の案内はがきを手に迷っていた。
クラス会までに体調が回復するのか不安だった。
しかし、このクラス会が茂夫に会える最後の機会に違いない
とも思った。

買い物から帰った夫の辰雄の手に花束があった。
白い包み紙の先端から黄色いフリージアが覗いていた。
部屋を紀子の春の香りが満した。
「これがなきゃ、君の春は始まらないだろう」
言いつつ辰雄は織部の花瓶にフリージアを挿して
部屋の隅のテーブルに置いてくれた。
紀子の迷いは消えた。
返信用はがきの「出席」を丁寧に丸で囲んだ。
そして余白に書き足した。

「みなさまとの再会を胸の動悸を覚えながら楽しみに
しております。そして、故郷を離れた日に駅のホームから
仰いだ南アルプスの山並みをもう一度眺めたいと思います。」

そして、色鉛筆を取り、辰雄が飾ってくれたフリージアの花を
残った余白に描き加えた。
茂夫の目に留まることを祈るように。
 
はがきの投函を辰雄に頼むと、
「その身体で本当に大丈夫なの?」
と心配してくれた。
「まだ日にちがあるから大丈夫よ」
紀子は自分に言い聞かせるように答えた。
フリージアの向こうに南アルプスの山並みが見えた。
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