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金曜日の午後だった。茂男のところに取引先の若い担当営業が来た。
「こどもが生まれました。名前はさえこにしました。早桜子と書きます」
茂男はいい名前だと思った。子どものことを話題にひととき雑談をした。担当営業が帰ったあと、紀子を呼んで桜の見えるところで食事をしたいと茂男は思った。
紀子に電話をしたあと、どの店がいいかと思案した。公園の片隅のテラス席のあるレストランを思い出した。あそこの桜も咲いているかもしれない。しかし予約なしで大丈夫だろうか。しかも金曜日だ。難しいかもしれない。電話はせずに兎に角行ってみることにした。
ラッキーなことに、茂男たちが着く直前にキャンセルがあり、二人用の席が用意できるという。テラス席に案内された。幸い外の気温も暖かく、テラス席には心地よい風があった。茂男の席の後ろのほうに桜の木が一本あった。ほぼ満開で、ときどき風にのってはなびらが舞うほどだった。
紀子の前にコンソメスープが運ばれた。
ウェイターが去るとき巻き起こしたような風が流れ、紀子のコンソメスープの上に桜のはなびらがひとひら舞い降りた。あの時と同じだと茂男は想った。
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