修二は精米所に来る直前に、ほおずき作りに失敗したのを思い出した。朱色の実を丁寧に木から取り、姉にならって、ゆっくりと指で揉んだ。実の中の種が少しずつ外れていった。爪楊枝で穴を開け、種を少しずつ、丁寧に出していった。もう少しというところで、鬼灯の口穴が破れてしまった。傍の姉は、もう口に入れたほおずきを上手に鳴らしていた。
修二は近くにあった一メートルほどの棒切れを手に取ると、夏空をつつくように、金魚の一匹を目掛けて突き下ろした。何回か外れた後、金魚を突付くことのできそうなことを確信すると、修二は同じ金魚に狙いを定めて棒切れを突き下ろし続けた。この一突きで金魚の腹が割れる。そう思った瞬間、修二の手が止まった。いや、止まってくれた。修二は急いで母屋の二階にある圭子の部屋の窓を見た。圭子の姿は見えなかった。修二は立ち上がり、棒切れを庭の一番遠い隅に放り投げた。その時、あの棒切れの先端が最初から濡れていたような気がし始めた。足元の鬼灯が再び目に入った。修二は金魚の穴から逃げるように、しかしゆっくりと精米場に入った。
「一匹怪我しているけど、全部元気よ。」
数日後、学校からの帰り道で遠回しに訊いた修二に、圭子は正面を向いたままさらっと答えた。
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