圭子は俊夫を病室へ見舞った。
スイートピーをベッド脇のテーブルの上に活け終わった女性が、軽く会釈しながら圭子と入れ違いで病室を出て行った。
「スイートピー持ってきたけど、ダブっちゃったのね。」
「ありがとう。君のスイートピーは特別だよ。思い出すなー。」
「ええ。」
病室を出た圭子は、俊夫が既に遠くへ行ってしまったことを悟った。
圭子は、残された選択肢に従い、気持ちの整理がしっかりつかないまま紀夫と結婚した。
その年の秋、圭子はスイートピーの種を蒔いた。最初の結婚記念日が過ぎてから咲いたスイートピーの花は、可憐で弱弱しく見えたが、蔓はしっかりと支柱にまとわりついているのを見て、圭子は戸惑に似た感情を抱いたのに気づいた。
スイートピーの種を買わなくなってから何年経ったのだろう。答えを出す前に、圭子はもう、今年も紀夫の手から渡される真紅のバラを想像していた。
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