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朝食の後片付けが終わり、洗濯を始める前に一息いれようとした紀子は、
庭の山茶花が一輪グラスに挿されてサイドボードの上にあるのを目にした。
茂男と二人だけの生活となった今では、紀子が自分でやったこと以外は茂男のやった
ことだから、グラスの山茶花は茂男が置いたことになる。庭に二本あるうちの一本で、
茂男の好きなほうだった。
茂男がグラスとはいえ花を挿して飾るなんて、どういうことなのだろう。
紀子はいぶかしく思う前に、花を切り取り、食器棚からグラスを取り出して水を入れ、
山茶花を挿してサイドボードの上に置くという茂男の一連の動作を想像して
顔をほころばせてしまった。
庭の二本の山茶花は、この家を建てるとき、二人で植木市へ行って買ってきたものだった。
二人の好みが合わなかったので二本買うことにしたのだ。
花びらの周囲が少し濃い目の桃色の花を茂男は好きだといい、桃色の柔らかい和紙で
作ったような大き目の花びらを紀子は好きだといった。紀子はそれほどのこだわりはなかったが、
茂男は自分の好きな花と紀子の好みが一致しなかったのを気にして、
「じゃー二本買って帰ろう。」と言った。
いつもなら紀子の好みをそのまま受け入れてくれるはずの茂男が、珍しく自分の好きな花に
拘ったのが、紀子には新鮮だったのを覚えている。
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